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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)25号 判決 1979年2月09日

寝屋川市香里本通町七番二八号

原告

大東茂秋

右訴訟代理人弁護士

大槻龍馬

谷村和治

枚方市大垣内町二丁目九番九号

被告

枚方税務署長 岡山亮次

右指定代理人

上原健嗣

安藤稔

片岡英明

小林修爾

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

原告は、

「一、被告が原告に対し

(一)  原告の昭和三七年度分所得税について、昭和四一年二月一〇日付所第一九八号昭和三七年分所得税の更正並びに加算税の賦課決定通知書をもって総所得を一、一三三万一、八八〇円と更正し、過少申告加算税五万八、七五〇円、重加算税一四万〇、四〇〇円を賦課した課税処分

(二)  原告の昭和三八年度分所得税について、昭和四一年二月一〇日付所第一九七号昭和三八年度分所得税の更正並びに加算税の賦課決定通知書をもって総所得を二、二四六万七、〇二七円と更正し、過少申告加算税二〇万六、二〇〇円、重加算税一一四万〇、九〇〇円を賦課した課税処分

(三)  原告の昭和三九年度分所得税について、昭和四一年二月一〇日付所第二〇六号昭和三九年分所得税の更正並びに加算税の賦課決定通知書をもって総所得を七、六六七万四、七九四円と更正し、過少申告加算税八五万二、六〇〇円を賦課した課税処分

(四)  原告の昭和四〇年度分所得税について、昭和四四年三月五日付所第三八六号昭和四〇年分所得税の更正並びに加算税の賦課決定通知書をもって総所得を四、五八六万四、〇六九円と更正し、過少申告加算税六三万七、五〇〇円を賦課した課税処分

(五)  原告の昭和四一年度分所得税について、昭和四四年三月五日付所第三八七号昭和四一年分所得税の更正並びに加算税の賦課決定通知書をもって総所得を二、五〇七万〇、八三七円と更正し、過少申告加算税三二万二、九〇〇円を賦課した課税処分

(六)  原告の昭和四二年度分の所得税について、昭和四六年二月二〇日所第六六号昭和四二年度分所得税の再更正及び加算税の賦課決定通知書をもって、総所得を三、一九一万九、五二〇円と更正し、過少申告加算税一六万七、七〇〇円を追加賦課した課税処分

(七)  原告の昭和四三年度分所得税について、昭和四六年二月二〇日所第六五号昭和四三年度分所得税の再更正及び加算税の賦課決定通知書をもって、総所得を五、〇一五万一、二三五円と更正し、過少申告加算税七四万二、一〇〇円を追加賦課した課税処分

はいずれもこれを取り消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、被告は、主文と同旨の判決を求めた。

第二原告の請求の原因

一  原告は昭和三七年ないし昭和四三年の所得税につき別表(一)のとおりの確定申告および修正申告をなしたところ、被告は同表のとおり、昭和四一年二月一〇日付で昭和三七年ないし昭和三九年分の各更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分を、昭和四四年三月五日付で昭和四〇年ないし昭和四二年分の、昭和四四年九月一一日付で昭和四三年分の各更正処分ならびに過少申告加算税の賦課決定処分をなし、さらに昭和四二年および昭和四三年分については昭和四六年二月二〇日付で各更正処分ならびに過少申告加算税の賦課決定処分をなした(以下、本件課税処分という。)

二  原告は被告に対し本件課税処分につき異議の申立をしたが、いずれも棄却されたので(なお、一部については審査請求とみなされた)、さらに審査請求をなしたが、大阪国税局長はこれらを棄却した。

三  ところで、原告が被告の本件課税処分が誤りであるとして不服を申立てている理由は、原告が昭和三七年から昭和四三年の間に所有していた多くの土地を大東土地株式会社に売却したところ、これらによる所得を譲渡所得として所謂二分の一課税を適用すべきであるにかかわらず、被告において雑所得と認定したことにある。

四  しかも、被告は、原告の昭和四二年、および昭和四三年分の各所得のうち譲渡所得と認定していた部分についても後日これを雑所得として各再更正処分ならびに過少申告加算税賦課決定処分をなしたのであって、右処分は何らの事情の変更もないのに認定のみを変更したもので、納税者の法的生活の安全を脅す再更正権の濫用であり許されない。

五  よって、本件課税処分の取消を求める。

第三被告の答弁

一  請求の原因一ないし三は認める。

二  同四のうち、再更正処分等の理由は主張のとおりであるが、その余は争う。

本来原告の昭和三七年ないし昭和四三年の所得のうち別表(一)で譲渡所得とされているものは雑所得とされるべきものであるが、再更正処分の期間の制限から昭和四二年昭和四三年分についてのみ再更正処分等がなされたに過ぎない。

第四被告の主張

(一)  原告は昭和三七年ないし昭和四三年の間多数の土地を譲渡し、これによって所得をえている。

(二)  右譲渡はいずれも営利を目的として継続的になされたものである。

(三)  原告の譲渡した土地は、少なくとも「たな卸資産に準ずる資産」である。

(四)  よって、右所得は所得税法三三条二項一号(昭和四〇年改正前の所得税法九条一項かっこ書)によれば譲渡所得とはされないものであり、しかも未だ事業所得とはみられないので雑所得となる。

(一)  原告の本件係争各年の土地譲渡による収入金額等は別表(二)のとおりである。

なお、右昭和三八年分のうち、高松章一、佐藤彰男に譲渡した土地の分はつぎのとおりである。

(二)  原告の本件係争各年の配当所得、不動産所得、給与所得の金額は別表(一)の各「更正」欄記載のとおりである。

三  原告の前記土地譲渡による所得のうち、二重契約による隠ぺい所得は昭和三七年分が合計八五万一、七一〇円であり、昭和三八年分が合計六九一万〇、八七九円である。

なお、昭和三八年分のうち、高松章一、佐藤彰男に関する収入金額等は前記のとおりであるところ、これらについての原告の申告ならびに隠ぺい所得は左記のとおりである。

四  本件各更正処分ならびに再更正処分の内訳は別表(一)各「更正」ならびに「再更正」欄記載のとおりであるところ、原告の本件係争各年についての所得の申告等は同表各「確定申告」ならびに「修正申告」欄記載のとおりであり、また隠ぺい所得が前記のとおりであるので、原告の昭和三七年ないし昭和四一年の各過少申告加算税額および重加算税額は同表各「更正」欄記載の金額を、昭和四二年、昭和四三年の各過少申告加算税額は同表各「再更正」欄記載の金額を下廻ることはない。

五  よって、右の範囲でなされた本件課税処分はいずれも適法であり、瑕疵はない。

第五原告の答弁

一  被告の主張一のうち、(一)は認めるが、その余は争う。

原告は相当の山持ちであり、これを処分したために、その処分件数は多数回に及んでいるが、通常の資産の譲渡と何ら異るものではない。

二  同二、(一)のうちつぎの点を除きその余は認める。高松章一分については譲渡経費が五万六、二〇〇円、譲渡益が三〇万六、九一二円であり、佐藤彰男分については譲渡経費が六万三、二〇五円、譲渡益が三一万九、〇四〇円である。

同二、(二)は認める。

三  同三のうち、高松章一および佐藤彰男分の譲渡経費および譲渡益は前記のとおりであり、その余(右両名分の譲渡経費の申告額が被告主張のとおりである点を含む)は認める。

四  同四については、原告の本件係争各年の所得金額が別表(一)の各「更正」および「再更正」欄記載のとおりとするならば、本件課税処分の内訳が同欄記載のとおりとなることは認める。

理由

一  請求の原因一ないし三については当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の本件係争各年になされた土地の譲渡による所得が雑所得とされるべきものか否かについて判断する。

被告の主張一、(一)については当事者間に争いがなく、成立について争いがない乙第二ないし第五号証(質問てん末書)、第六号証(広告パンフレット)、第一八号証(質問てん末書)、第一九号証(毎日新聞記事についての図書証明書)、第二〇号証の一ないし三(朝日新聞記事についての各図書証明書)、証人山居豊の証言により真正に成立したと認められる乙第八号証の一ないし一〇、第九号証の一ないし九(土地売買状況調)、証人安岡喜三の証言により真正に成立したと認められる乙第一五号証(土地購入一覧表)、第一六号証(土地譲渡一覧表)、証人大東甚太郎、同奥村勝の各証言の一部ならびに原告本人尋問の結果の一部によれば、

(1)  原告の父・大東甚太郎(以下、甚太郎という)は不動産取引が好きで、第一次世界大戦前より不動産の売買に手を出し、食堂経営、ハイヤー営業のほか昭和一七年頃には土地仲介業を開業したこと。

(2)  甚太郎は、戦争の激化により右仲介業を中断していたが、昭和三〇年頃には原告と一緒に大東不動産という商号で土地仲介業を再開していたもので、昭和三四年八月には大東土地株式会社を設立し、右の個人営業を形式上会社組織に改めたこと。

(3)  右会社設立当時、甚太郎が代表取締役社長に、原告が専務取締役に、弟の大東秀男が取締役にそれぞれ就いたが、実際は原告が殆んど独りでその経営にあたっていたもので、同会社名義の財産についても、原告が勝手に取り出し、架空名義の口座に預金するなどして個人財産と混同するなど、右会社は所謂個人会社で、形式上はともかくとして、株式会社の実体を有していなかったこと。

(4)  他方、原告は、昭和二八年頃から大東秀男や知人の白井幸夫に多数の土地を購入させ、同時に自らも多数の土地を購入するなどし、昭和三一年から昭和四二年までの間左のとおり多数回にわたり継続的に土地の売買を行なっていること(なお、昭和三七年以降の売却分については当事者間に争いがない。)

(5)  原告が本件係争各年に譲渡した土地附近については昭和三〇年頃から新聞紙上で国と大阪府によって開発される旨の報道がなされていたもので、右譲渡した土地の中には、甚太郎において一旦売却しておきながら、昭和三一年になって原告らにおいて買戻している土地すらあること。

以上の事実が認められ、右認定に反する証人大東甚太郎、同奥村勝の各証言部分ならびに原告本人尋問の結果部分は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告の本件係争各年の譲渡にかかる土地は、当初から販売の目的をもって取得されたものであり、右土地の譲渡は営利を目的として継続的になされたものであるから、その余の点につき検討を加えるまでもなく、これによる所得は譲渡所得とはならないことは明らかである。しかも、右認定の事実関係のもとでは未だ事業所得というには足りないから、雑所得とすべきものである。

この点に関し、原告は右土地の譲渡は通常の資産の譲渡に過ぎない旨主張するが、単なる弁解の域を出るものではなくこれを容れる余地はない。

三  原告の本件係争各年の土地譲渡による収入金額等については、昭和三八年分のうち高松章一、佐藤彰男分の各譲渡経費および譲渡益を除くほかは、被告主張のとおりであることについては原告においてこれを認めているところである。そして、被告主張の右各譲渡経費が、いずれも原告の申告額と同一であることは前記の如く当事者間に争いがなく、かつ右主張経費額は右申告に基づいて定められたものであることについては弁論の全趣旨に照して明らかなところ、他に特段の事情も認められないから、右主張経費額は適正なものと推定され、したがって右主張経費額を控除した後の右各譲渡益も適正なものというほかはない。

そうすると、別表(二)の本件係争各年の譲渡益欄掲記の各金額は本来原告の雑所得金額に算入されるべきものであるから、この各金額の範囲内で定められた別表(一)記載の本件課税処分の譲渡所得金額(原告にとっては雑所得金額とされるよりも有利)および雑所得金額については何ら非違はないことになる。

四  被告の主張二、(二)については当事者間に争いがない。

五  原告の昭和三七年および昭和三八年の各隠ぺい所得については、前記高松および佐藤分の各譲渡経費、譲渡益を除いて当事者間に争いがない。そして、高松および佐藤分の各譲渡経費、譲渡益は前叙のとおり被告の主張のとおりに認められるのであるから、結局原告の右隠ぺい所得は被告の主張三のとおりとなる。

六  本件課税処分の総所得金額の内訳とされる別表(一)記載の各金額に非違がないことは前叙のとおりであり、そうすると、本件課税処分の内訳が同表記載のとおりとなることは当事者間に争いがないから、結局、本件課税処分は適法になされたことになる(なお、原告は本件課税処分のうち、昭和四二年および昭和四三年分についての再更正処分等は納税者の法的生活の安全を脅すもので、再更正権の濫用であると主張するが、右再更正処分等は国税通則法二六条、七〇条など法律の定めに従ってなされたものと認められ、再更正権の濫用となる事情は何ら見出せないから右主張は失当である。)

七  よって、原告の請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 井深泰夫 裁判官 近藤壽邦)

別表

別表

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別表 (二)

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